

黒く恋い焦がれた砂糖と乳脂肪が、林檎を見る影もなく老いさばらせつつも
不死の力を与え、冥さに閉じこめられた紅い情熱がほの見えている。
三度目の
タルト・タタン Tarte Tatin
もっと高さがあると格好良いけれど、味としてはかなり満足。
きれいで幸せなだけじゃない、自然の味を新鮮に味わえるわけじゃない、
人の手を加えたならではの深淵なお菓子が、冬には似合うと思う。
厳格な菜食主義の中には、葉物の野菜も食べず、地に落ちた果物と
牛乳だけ摂る教理があるそうです。植物であっても引き抜いたり
ちぎったりしては生命を傷つけることになるという考えでしょう。
魚や肉より更に、野菜や果物の命なんてあまり平素考えない私達ですが
(考えていたら生きていけないし)、一番いきものらしい果物 と言ったら
りんご かな。
林檎を乾燥させてしわくちゃのお婆ちゃんの頭に見立てた
アップルドール。
小さい頃雑誌かなにかで見て、かなり怖かった思い出が。
りんごの頬持つ乙女も、年を重ねればみんな平等にしわしわに。
肉色の熟成林檎をほおばって、命を頂く後ろめたさと共に
甘さと苦味と酸味を大事にだいじに飲み込む、晴れた午後。